🏛️ 歴史の謎

実在した鬼神・両面宿儺——古代日本が封じた「もう一つの顔」

漫画のキャラクターとして広く知られる両面宿儺だが、その原型は記紀にも記された古代の実像にある。史料が語る正体を追う。

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漫画の悪役には「先輩」がいた

現代の若者に「宿儺」と言えば、人気漫画の最強呪霊として即座に思い浮かぶだろう。だが、その名は漫画が生まれるはるか以前から、日本の正史に刻まれていた。『日本書紀』仁徳天皇の段に登場する「両面宿儺(りょうめんすくな)」という存在だ。その記述は驚くほど具体的で、かつ不穏である。

記述によれば、この者は一つの胴に顔が前後に二つあり、四本の腕と四本の脚を持っていたとされる。弓矢を操り、飛騨の地(現在の岐阜県北部)を支配し、朝廷の命令に従わなかったという。やがて朝廷から派遣された将軍によって討伐されたと書紀は伝えるが、この「討伐された怪物」の物語には、もう一つの顔がある。

飛騨に残る「英雄」の記憶

岐阜県高山市周辺には、宿儺を祀った神社や伝承が今も点在している。地域の伝承では、彼は民を苦しめた悪鬼ではなく、岩を割り道を拓き、悪神を退治した守護者として語られてきた。朝廷に「討伐される側」だった者が、土地の人々にとっては英雄だった——この逆転は、歴史の語りがいつも勝者の側から行われてきたことを静かに示している。

飛騨一宮水無神社をはじめ、この地には宿儺ゆかりとされる場所が複数伝わる。彼が退治したとされる大蛇の伝説や、素手で岩を砕いたという話は、古代の山岳民族が持っていた独自の信仰や技術の記憶が、時を経て神話的に肉付けされたものかもしれない。

「二つの顔」が意味するもの

両面宿儺の最大の特徴である「二面の顔」は何を意味するのか。民俗学的には、異形の身体描写が「異族」や「異能者」を指す比喩として使われてきた例は多い。朝廷の文化圏に属さない、独自の権力や信仰体系を持つ集団の首長が、中央から見て「化け物」として描写されたという解釈は根強い。

一方で、飛騨地方には古来、独特の建築技術を持つ「飛騨の匠」の伝統があり、大陸や半島との交流を示す遺物も出土している。宿儺が実在した人物だとすれば、それは特異な身体的特徴を持つ個人だったのか、あるいは強大な影響力を持つ部族の象徴的な首長だったのか。史料だけでは答えは出ない。

正史に「討たれた異形」として記され、地域に「守った英雄」として祀られ続ける——両面宿儺が持つ二つの顔は、書かれた歴史と生きられた記憶の間に横たわる深い溝を、今も静かに照らし出している。

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