🏛️ 歴史の謎

AI解析でも解けなかった「ヴォイニッチ手稿」——600年間誰も読めない書物の正体

15世紀に書かれたとされる奇書「ヴォイニッチ手稿」。解読に挑んだ天才たちの系譜と、最新AI研究が明かしつつある手がかりを追う。

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誰も「読めた」と言えない本が、世界に1冊ある

現在アメリカ・イェール大学の貴重書図書館に保管されている一冊の手稿が、600年近く世界中の研究者を悩ませてきた。「ヴォイニッチ手稿」と呼ばれるその書物は、約240ページにわたって未知の文字と図版で埋め尽くされている。植物の挿絵のようなものが描かれているが、その植物はどの種にも一致しない。天体図のような円形の図もある。裸の人物が液体に浸かる奇妙な場面もある。しかしそれが何を意味するのか、誰も確かめることができていない。

書物の名前は、1912年にポーランドの書籍商ウィルフリッド・ヴォイニッチがイタリアで入手したことに由来する。放射性炭素年代測定の結果、羊皮紙は15世紀初頭のものとされており、少なくとも600年の歴史を持つことは確認されている。ただし「誰が書いたか」「何のために書いたか」については、今も確たる答えがない。

第二次大戦の暗号解読者も挫折した

この手稿が厄介なのは、「解けない」ことではなく、「本当に意味があるのかどうか自体が不明」という点にある。テキストには一定の文字頻度の偏りがあり、統計的には自然言語に近い構造を持つとされる。単純なデタラメや乱数的な並びではないらしい、ということは分かっている。

第二次世界大戦中にエニグマ暗号の解読に関わった専門家たちも、この手稿には手を焼いたという。暗号の構造を前提に解析しようとしても、どの暗号方式にも綺麗に当てはまらない。「そもそも暗号ではなく、忘れ去られた言語かもしれない」という説も浮上したが、それを証明する比較対象もない。

AI研究の登場で状況は少し動いた。カナダのアルバータ大学の研究チームは自然言語処理の手法を使い、テキストが統計的にヘブライ語に近い可能性を示した。また別の研究者らは機械学習を用いて一部の単語の意味を推定しようと試みた。しかしいずれも「解読」の域には程遠く、「この言語に似た何かかもしれない」という段階に留まっている。

解明されたのは「解けないことの深さ」だけかもしれない

AI解析が進むにつれ、むしろ謎の根の深さが浮き彫りになってきた面もある。テキストの構造は確かに言語的な規則性を持つが、翻訳可能な形には結びついていない。図版と本文の対応関係も依然として不明確だ。「意図的な偽書説」——つまり最初から読めないように作られた書物という仮説——も依然として消えていない。

600年間、天才と呼ばれる人々が何度も挑み、その都度はね返されてきた。最新技術が加わっても「完全解読」の報告はまだない。この手稿は、人間の知的探究心の限界を測る一種の試金石のように存在し続けている。あなたが今読んでいるこの文章も、500年後の誰かにとっては「意味不明な記号の羅列」に映るだろうか——そんなことをふと考えさせる書物でもある。

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