🏛️ 歴史の謎

飛騨に実在した「両面宿儺」——鬼か王か、古代史に刻まれた異形の記録

呪術廻戦で知られる両面宿儺。その原型は古代飛騨に実在したとされる人物であり、日本書紀にも名が残る。鬼として討たれた者の、もうひとつの顔とは。

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漫画の「呪いの王」に、実在のモデルがいた

『呪術廻戦』に登場する両面宿儺は、指の断片すら呪力を放つ規格外の存在として描かれる。だがその名前は創作ではない。今から1600年以上前に編まれた『日本書紀』に、確かに記録されている固有名詞だ。

書紀によれば、仁徳天皇の御代、飛騨国(現在の岐阜県北部)に「宿儺」と呼ばれる者が現れたとされる。顔が前後に二つあり、四本の腕を持ち、しかし足は二本。そのような異形の風貌が記されており、周囲の民を苦しめる存在として朝廷の武将に討たれたと書かれている。古代の正史がこれほど具体的な「怪物」の描写を残しているのは、それ自体が異例といえる。

飛騨に残る、もうひとつの「宿儺伝説」

興味深いのは、同じ飛騨の地域に、まったく異なる伝承が今も生きていることだ。

そちらの語りでは、宿儺は民を苦しめた怪物ではなく、むしろ人々を守り、農地を切り開き、信仰を集めた土地の英雄として描かれている。飛騨各地にはゆかりの寺社や地名が残っており、地元では「鬼神」ではなく「守り神」として祀られてきた歴史がある。同一人物が正史では討伐すべき賊として、地域の伝承では英雄として、まったく正反対の位置づけで語り継がれているのだ。

この矛盾はどこから来るのか。一つの見方として、宿儺は飛騨の地に独自の勢力を持つ豪族か王的な存在であり、大和朝廷の支配に抵抗したために「賊」として記録された、という解釈がある。勝者が歴史を書くとすれば、朝廷側の文書が彼を怪物に仕立てたとしても不思議ではない。「四本腕・二つ顔」という描写も、実際の身体的特徴というより、服従しない異端者を象徴的に貶めた表現だったかもしれない。

異形の記録が問いかけるもの

確かなことは少ない。宿儺が実在の人物だったのか、それとも複数の人物や出来事が混ざり合って生まれた伝承上の像なのか、現時点で学術的な決着はついていない。飛騨の地に彼を祀る場所が今も残っているという事実だけが、何かが「あった」ことを静かに示している。

朝廷の筆が鬼と書いた者を、土地の民は神と呼んだ。どちらかが嘘をついているわけではなく、どちらの視点も「本物の記憶」だったのかもしれない。歴史の中で異形とされた存在が、時を超えてポップカルチャーに蘇る。その理由の一端は、人が「語り切れなかった何か」を本能的に感じ取っているからではないだろうか。

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