AIがナスカで303点を新発見——それでも「なぜ」だけが残る
山形大学とIBMの共同研究により、AIがナスカ台地で303点もの地上絵を新たに発見した。技術が謎を「量」で塗り替えた先に、本質的な問いだけが浮かび上がる。
機械の目が砂漠を読んだ
2019年から2020年にかけて、山形大学の研究チームはIBMのAI技術を活用し、ペルーのナスカ台地を上空から精査した。その結果、わずか数か月で303点もの新たな地上絵を確認したと発表した。従来の調査では長年をかけて少しずつ積み上げられてきた発見数を、AIは一気に塗り替えた。
新たに見つかった絵の多くは、これまで主流だった巨大な動物や幾何学模様とは異なり、人間の頭部を模したとみられる小さな図柄が多かったとされる。サイズも数メートル程度のものが含まれており、人が地上を歩きながら見ることを前提にした可能性も研究者の間で議論されている。空から眺めるためだけに描かれたという定説が、静かに揺らぎ始めた瞬間でもあった。
「誰が」より「なぜ」が難しい
ナスカの地上絵がおよそ2000年前、ナスカ文化の人々によって描かれたことは、ほぼ定説となっている。地表の赤みがかった石を取り除くことで白い地肌を露出させる、シンプルながら精緻な技法だ。道具も測量技術も限られた時代に、これほどの規模と正確さで線を引いた事実は、それだけで驚嘆に値する。
しかし「なぜ描いたか」という問いは、発見点数が増えるほど答えが遠のくように見える。雨乞いの儀式の場という説、巡礼路という説、天文暦との対応を指摘する研究、宇宙人の滑走路という俗説まで、提唱されてきた仮説は数十にのぼる。どれも完全には否定できず、どれも完全には証明されていない。AIが303点という新しい「素材」を加えたことで、研究者たちは仮説の検証をもう一段階、深く進めることができるようになった。だが決定打にはまだ遠い。
謎が謎のまま生き続ける理由
世界には「解けた謎」と「解けていない謎」がある。ナスカの地上絵が特別なのは、解けていないのに消えないことだ。乾燥した気候のおかげで絵は今も台地に刻まれたままで、研究のたびに新しい発見が加わる。謎そのものが成長し続けている。
AIは人間の目を超えた認識力で砂漠を読んだ。だが「意味」を読む能力はまだ人間の側にある。300点超の新発見は、答えへの一歩であると同時に、問いの広がりでもある。なぜ彼らはあれほどの労力を、誰にも見えないかもしれない場所に注いだのか。その動機を想像するとき、2000年という時間が急に薄く感じられる。