AIが砂漠に刻まれた謎を掘り起こす——ナスカの「新たな線」はなぜ見つからなかったのか
山形大学の研究チームがAIを用い、ナスカ台地で300点超の新たな地上絵を発見した。人類は何十年も現地に立ちながら、なぜ見落とし続けたのか。
人の目が届かなかった場所
ペルー南部に広がるナスカ台地は、乾燥した風と赤茶けた砂礫に覆われた、ほぼ無人の高原地帯だ。20世紀初頭に大型の地上絵が「発見」されて以来、研究者たちは上空から、あるいは地表を歩きながら調査を続けてきた。それでもなお、長年にわたって見落とされてきた絵が存在したとすれば——それはどれほど小さく、どれほど地面に溶け込んでいたのか、想像するだけで眩暈がするほどだ。
山形大学の研究チームは、航空写真や衛星データをAIに学習させ、人間の目では砂と区別しにくいわずかな濃淡の差を自動検出する手法を開発した。その結果、2019年から2024年にかけての複数の発表で、これまで知られていなかった300点以上の地上絵が次々と確認されたとされる。魚、鳥、人型——これまで確認されてきた巨大な図形とは異なり、新たに見つかった絵の多くは比較的小型で、道沿いや斜面の際に刻まれていたという。
「なぜ作られたのか」という問いは変わらない
地上絵の制作年代はおおむね紀元前100年から紀元後800年頃のナスカ文化期とされているが、個々の絵の年代や制作者の意図については、研究者の間で今も議論が続いている。「暦だ」「水路の目印だ」「儀礼のための聖なる図形だ」——数十年にわたって様々な仮説が提唱されてきたが、決定的な証拠はまだどこにもない。
AIの発見が加わることで、この問いはむしろ複雑になった面もある。新たな300点の絵が示す場所・大きさ・モチーフのパターンを統計的に分析すれば、制作の意図に迫る手がかりが得られるかもしれない。一方で、「これで全てが分かった」と言える段階ではまったくなく、AIはあくまで「見つける道具」にすぎない。解釈する作業は、依然として人間の仕事だ。
技術が変えるもの、変えないもの
考古学の世界では近年、ライダー(LiDAR)や機械学習を使った遺跡探索が急速に広まっている。密林に覆われたカンボジアや中米でも、同様の手法で失われた都市の痕跡が相次いで確認されてきた。ナスカの事例はその延長線上にあるが、「肉眼で見通せるはずの乾燥台地でさえ、AIなしには見えていなかった」という事実は特別な重みを持つ。
人類は何百年もの間、台地の上を歩き、空を飛び、カメラを向けてきた。それでも砂の中に眠り続けた絵がある。技術の進歩が過去を書き換えるのではなく、過去の「見え方」を更新していく——この静かな逆転こそが、ナスカの新発見が持つ最も深い意味かもしれない。台地にはまだ、次のAIが解くべき絵が残っているのだろうか。