ストーンヘンジ「石の起源」が示す、想像を超えた運搬の謎
なぜ遠く離れた場所の石が使われたのか。ストーンヘンジ建造をめぐる「ブルーストーン問題」は、現代科学でも完全には解けていない。
400キロ先からやってきた石
イングランド南部の草原に佇むストーンヘンジは、今から約5000年前に建造が始まったとされる巨石遺跡だ。外周を構成する大きな砂岩(サーセン石)は比較的近くで採れるが、問題は内側に立ち並ぶ「ブルーストーン」と呼ばれる青みがかった岩石群である。地質調査の結果、その産地はウェールズ西部のプレセリ丘陵と特定された。現在地から直線距離でおよそ250〜300キロ、実際の移送ルートを考えれば400キロ以上に及ぶとも試算される。重さ数トンの石を、道路も機械もない時代にどうやって運んだのか。これがいわゆる「ブルーストーン問題」だ。
「氷河が運んだ」説と「人力運搬」説の対立
研究者の間では長く二つの仮説が対立してきた。一方は「氷河期に氷河が石を運んだ」という自然現象説。もう一方は「当時の人々が筏や橇を使って意図的に運んだ」という人力運搬説だ。2019年に発表された研究では、プレセリ丘陵の特定の露頭がブルーストーンの採掘跡である可能性が高いと報告された。そこには明らかに人工的に石を割り取った痕跡が残っているとされ、少なくとも「すべて氷河のせい」とは言いにくくなっている。ただし、どのような手段で数百キロを移送したかは、いまだ定説がない。実験考古学の試みとして、現代人が当時の技術を再現して石を動かす試みも行われてきたが、それが唯一の方法だったという証明にはならない。
「なぜそこでなければならなかったのか」という問い
より深い謎は、技術的な「どうやって」ではなく、目的の「なぜ」にある。わざわざ遠方の石を選んだことには、地元で調達できない何らかの理由があったはずだ。プレセリ丘陵の石が特別な霊力を持つと信じられていた、あるいはその地自体が聖地として崇められていた、という仮説もある。アトランティスのような超古代文明の介在を想起させるロマンは理解できるが、現時点で考古学的な証拠はない。それでも、なぜ先史時代の人々がこれほどの労力をかけて「遠さ」にこだわったのかという疑問は、どんな合理的説明を並べても、どこか釈然としない余白を残す。ストーンヘンジが世界中の人を惹きつけるのは、その「釈然としなさ」そのものかもしれない。