雪男のDNA鑑定が突きつけた、想像を超えた「正体」
オックスフォード大学の遺伝学者が収集した体毛サンプルのDNA分析が、長年の謎に思わぬ答えを提示した。
半世紀分の「証拠」をDNAにかける
ヒマラヤの高地で目撃されてきた巨大な人型生物、イエティ。登山家や現地の人々が語り継いできたその存在は、長らく「伝説か、思い込みか」という問いの中に置かれてきた。そんな状況に対し、あるイギリスの遺伝学者が科学的なアプローチで挑んだ。オックスフォード大学の人類遺伝学者ブライアン・サイクス教授は、世界各地に保管されていたイエティや雪男にまつわる体毛・骨・爪などのサンプルを丁寧に集め、DNAシーケンス解析にかけた。
集まったサンプルの多くは、クマやシカといった既知の動物のDNAと一致した。つまり誤認や作り話だった可能性が高い。しかしその中で、サイクス教授の目を引く結果が出たサンプルがあった。ヒマラヤ山脈周辺で採取された毛髪が、古代の北極グマのゲノムと高い類似性を示したのだ。
絶滅したはずのクマが、まだいる?
北極グマとヒグマは、数十万年前に交雑していた時期があったとされる。サイクス教授はこの分析結果をもとに、ヒマラヤ周辺に北極グマとヒグマの交雑種、あるいはその子孫にあたる未知のクマが生息している可能性があると論じた。大型のクマが深い霧や雪の中で直立した姿を見せれば、遠目には「人型の巨大生物」に映ることもあるだろう。イエティの目撃証言の少なくとも一部は、こうした生物との遭遇だったのかもしれない。
ただし、この仮説に対しては批判も少なくない。DNAのわずかな断片から種を確定することへの科学的な慎重論、サンプルの保存状態への疑問、そして何より「まだ確認されていない種」を前提にした推論には、乗り越えるべき壁が多い。サイクス教授自身も、これは「可能性の提示」であり確定的な結論ではないと述べている。
謎が消えることへの、ある種の惜しさ
1970年代、広島県の山中でも「ヒバゴン」と呼ばれる人型生物の目撃情報が相次いだ。地元自治体が対策委員会を設置するほどの騒ぎになったが、その後も実体は確認されていない。世界各地で繰り返されるこうした目撃談は、未知の生物への根源的な好奇心と、「人間の知らない何かがまだいるはずだ」という感覚を反映しているようにも思える。
DNA科学は着実に「正体」を明かしつつある。だが、それでもすべての謎が解けるわけではない。ヒマラヤの奥地に、まだ記録されていない何かが潜んでいるのか。あるいは、謎そのものを必要としているのは、生物ではなく私たち人間の側なのだろうか。