ナスカの地上絵、30年の研究とAIが解いた「描いた理由」
なぜあれほど巨大な絵が描かれたのか。山形大学の研究チームがAIを駆使し、古代ナスカ文明の「意図」に迫る成果を発表した。
「なぜ描いたのか」という、最も根本的な問い
ナスカの地上絵が世界に広く知られるようになって久しい。ペルー南部の乾燥した高原地帯に刻まれた巨大な図形の数々——ハチドリ、サル、クモ、幾何学模様——は、上空からでなければその全体像を把握できないほど大きい。「誰が描いたか」はナスカ文化の人々だと概ね判明しているが、「何のために描いたのか」という問いは長らく宙に浮いたままだった。
宇宙人説、水脈を示す地図説、天文カレンダー説……。多くの仮説が生まれては検証され、あるいは否定されてきた。その中で地道に現地調査を続けてきたのが、山形大学の研究チームだ。30年以上にわたる蓄積は膨大な図像データと地形情報に及ぶ。
AIが「見えない関係性」を浮かび上がらせた
近年の研究で転機となったのは、人工知能の導入だった。人間の目では気づきにくい図像の配置パターンや、地形との相関関係をAIが解析することで、これまで見落とされていた傾向が浮かび上がってきたとされる。
研究チームが注目したのは、地上絵と「道」や「集落跡」との位置関係だ。絵の多くが、人々が歩いたとみられる経路沿いに集中している——この傾向は、地上絵が「遠くから眺めるもの」ではなく、「歩きながら体験するもの」だった可能性を示唆している。祭礼の行列や儀式の場として機能していたのではないか、という仮説がより具体的な根拠を得つつある。
もちろん、すべてが解明されたわけではない。なぜあれほどの規模で描く必要があったのか、複数の図像がどのような順序や意味で配置されたのか、まだ分からないことは多い。研究者自身も「解明」という言葉には慎重な姿勢を見せており、今回の成果はあくまで「有力な手がかりの整理」と受け取るべきだろう。
古代の「意図」に、私たちはどこまで近づけるか
地上絵の制作は、紀元前後から数百年にわたる長い時間をかけて行われたとされる。一つの「目的」があったのではなく、時代ごとに意味が変容していった可能性も十分ある。AIという現代の道具を手に入れても、古代人の内面に直接触れることはできない。
30年という歳月をかけた研究が示すのは、謎が「解けた」という完結ではなく、問いがより精密になったということかもしれない。地上絵は今も乾いた大地に静かに横たわり、次の問いを待っている。